One & Done
  
誠意の実践


「”釣り人”それは、魚を釣る者である以上に自然の支持者、保護者、そして川の管理者として行動する者を意味する」
 


第一章

コンセプト

4月下旬、ブリティッシュ・コロンビア州西部の雨でぬかるんだ林道に立っていた。空を見上げると、低く浮かんだ雲が亜高山帯に立ち並ぶ木々の間をゆっくりとすり抜けていくのが見えた。春の甘い香りが鼻をかすめる。トレーラーからホワイトウォーター用のラフトを降ろすと、ボート乗り場のすぐ上にある川の瀬の白い音が聞こえてくる。とても重厚な音色だ。この川の止めどないパワーを物語っている。この氷河の川は、谷底を流れ、行く手を阻むすべてのものに栄養を供給している。その小川の流れの中には、決して出会うことのできない特別な生きものたちがいる。胸が高鳴る。しかし、野生動物であるスチールヘッドを追い求める釣り人たちには、責任も求められる。その責任について考えてみようと思う。

 



釣り人:ヨス・グラッドストーン:Chromer Sport Fishingオーナー

今年の初め、地元の漁場である沿岸部の冬のスチールヘッド・シーズンに、私はソーシャルメディアで1つの提案をした。この提案はありふれたもので、ただ”スチールヘッドを1匹釣り上げたら、その日は竿を置こう”というシンプルなもの。ドライフライにクリップフックをつけて釣るのもいいし、ビールを飲みながらのんびりするのもいい。いずれにせよこれを実践することは、将来の世代のために釣りというスポーツをつなげる遠回りでも確実な方法だろう。これがいわゆる、「One & Done」だ。

 


ソーシャルメディアでこの提案をしたところ、様々な意見が返ってきた。もちろん、良い意見も悪い意見も醜い意見もね。そこで、2つの注意点をここに記しておこうと思う。

第一に、私はこれを規制として実施することを提案しません。実際のところ強制するのは難しいし、漁業システムも様々だ。私はBC州にある私の故郷の川で、野生のウィンターラン・スチールヘッドのための同意に基づく方法として推奨する。

 


そして2つ目の注意点は、One & Done方式を実践するにあたり、必ずしも釣りの日数を減らせと言っているわけではない、ということだ。先祖代々の狩猟採集民の遺伝子が残っている人たちにとって釣りはとても楽しいし、深いカタルシスを得られる。一人で、あるいは友人と一緒に出かけるのなんか最高だ。よくできたフライロッドで野生動物を狩る。こんな気持ちを打ち立てられることはそう多くはない。一度味わったら戻れないはず。しかしそのためには、膨大な量の技術、知識、指導、粘り強さ、そして何よりも土地や自然を思いやる気持ちが必要だとも思うのです。
 


第二章

ケーススタディ

2021年の夏に話を戻し、そしてもう少し北上してみよう。
世界で最も多くのスチールヘッドが遡上する川のひとつであるスキーナ川では、回遊魚の遡上量が目標値を大幅に下回ることが示唆された(つまり、漁業から「逃れて」産卵のために淡水に戻ってくるサケの数)。
この知らせを聞いたとき、この川とその支流に縁のある者として、私は非常に矛盾した感情を抱いた。つまり、この漁業を管轄する森林・土地・天然資源事業・農村開発省は、レクリエーション用スチールヘッドのシーズンを短縮して漁場を開放することを決定したのだ。その中には、いくつかの規制の変更と勧告が含まれており、そのひとつが、アングラーに "One & Done "を求めるものであった。



そんな中、さまざまな意見が飛び交った。中には、この漁場はレクリエーションアングラー(いわば娯楽のために釣りをする人々)に開放すべきではないと主張し、単に釣りをしないことを選択する者もいた。このあたりは微妙な問題で、最近は誰もが声を上げるようになったので、まあ、混乱しているとしか言いようがない。しかし世界で最も歴史があり、多くの魚が釣れるスチールヘッド漁業に対して、公式のOne & Done勧告が出されたことは大きかった。



この現状には様々な要因があることを理解する必要がある。中でも、河川生息地の森林伐採、水力ダム、地球温暖化、商業漁業(および混獲)、刺し網による捕獲が大きな要因とされる。実際のところ、これらの要因を考慮すると、シングルバーブレスフックによるキャッチ&リリースのレクリエーション・フィッシングは、魚に与える影響が比較的小さいと言える。とはいえ、レクリエーションアングラーが魚に与える影響は小さいものの、彼らは自然保護者としての責任を理解しているべきである。


そう考えると、特定の漁場でレクリエーションフィッシングを禁止しても問題の解決にはならない。釣り人を排除しても、結果はさほど変わらないだろう。私たちに必要なのは、インパクトのある大きな変化だ。本気で魚を救おうとするなら、刺し網(及びその他の無差別的捕獲方法)の使用を禁止する必要がある。魚の生息地付近での森林伐採を制限し、商業的な漁業のやり方を見直す必要があるのだ。それからダムや養殖場の撤去も必要だろう。そして野生のスチールヘッドのような重要種の回復を優先させるために、科学に基づいたより良い意思決定を政府が行う必要もある。これは、何々主義とかではなく、そしてそんなに遠い話ではない。釣り場でラインを引き寄せフライを動かすような、手の届くところにある話なのです。



私個人としては、今年のスキーナ支流での商業活動の報酬の半分をCoast to Clouds Conservation Foundation(C2C)を通じて寄付したことがその表れです。C2CはNative Fish Society、Skeena Wild、Steelhead Society of BCといった団体に資金を提供するほか、Lower Skeena Pound Trapなどのプロジェクトに直接資金を提供しています。このポンドトラップ(Pound Trap)は刺し網の代わりとして、より持続可能な捕獲方法を促進するためのものである。このほかにも、私の仕事の時間の一部や、クリエイティブな資産のロイヤルティフリー使用権を、いくつかの自然保護団体に寄付し続けている。

しかしながら、こうしたレクリエーション・アングラーを川から排除することは、炭鉱からカナリアを追い出すようなものだ......。これでは、警鐘を鳴らす人々を排除するだけである。彼らはまた、これらの魚を救うために汚れ仕事をすることをいとわない人たちでもあるのだから。



今年の場合スキーナ川での漁期が短縮されたので、釣り人は自分の影響を認識し、それに応じた制限を求められた。特に、釣果を減らすことは賞賛に値することだ。そしてそれは今、多くの漁業にとって非常に適切なことではないかと思う。しかしいずれにせよ、自然の保護者から逃れるようなことは決してしないでほしい。共に足を濡らし、魚のために戦い続けよう。黙っているよりも、竿を手に魚のために戦うほうが、より良い結果を生むだろうから。



写真提供:Asher Koles

第三章

アクション

今年私は非常に感慨深い気持ちでスキーナ・バレーでの旅を終えた。旅の最後の宿泊地であるバビーン・スチールヘッド・ロッジで荷物の積み込みを終えると、前の週にグリズリーだらけのバビーンでウォールテントをシェアしていた友人のトム・デリーに別れを告げようと、ロッジの中へ駆け込んだ。このロッジの主人であるトムは、Native Fish Societyの代表として熱心に自然保護に取り組んでいる。



トムの家、バビーン・リバー

中に入るとトムと目が合った。私が帰るのを知っていたので、「チェイスどこへ行くんだ」と冗談交じりに彼は言った。私は思わず涙を流して笑ってしまった。私は感情を押し殺し、「次世代のスチールヘッドアングラーを育てるために家に帰るんだ」と言った。(生後3か月の息子が家で待っているしね。)それはある意味、「まだ希望がある」と彼に伝えたことになるのだろう。


トム・デリー、バビーン川を眺める

同じ志を持つ人たちと時間を共にする時、私は自分の故郷の漁場を振り返らずにはいられない。One & Doneの釣りができるなんて、どんなに幸運なことだろう。そして、この土地とつながるということが、どれほど美しいことか。



写真提供:Asher Koles

刺し網による壊滅的な混獲などの大きな要因に比べ、私個人の釣りがこれらの魚に与える影響がいかに少ないかを知ると、辛い気持ちになることもある。しかし、たとえレクリエーション・アングラーの影響が小さくても、繊細な漁業に対してOne & Doneを実践することは、誠意の実践であることに変わりはないと思うのです。何はともあれ、これは「私も自分の影響を抑えることを約束します」という証。そのため、それだけで魚が戻ってくるわけではないが、私自身はこの素晴らしい野生魚のためのカタルシスを得るために、この取り組みに全力を注いでいる。私が言いたいのは、「One & Done」以上のものが必要だということだが、それにはこれがとても良いスタートだと思うのです。



写真提供:Asher Koles

”釣り人”それは、魚を釣る者である以上に自然の支持者、保護者、そして川の管理者として行動する者を意味します。釣りをするならば、魚のや漁場の保護のために個人的にできることをする責任があるのです。あなた個人にとっての誠意の実践とは何ですか?



写真提供:Asher Koles

Editor’s note:これは私個人の考えです。とはいえ、釣り人を団結させ、野生の魚を保護するための最良の方法について、バランスのとれた、迅速かつ現実的な方法で双方向の会話をすることに全力を尽くします。あなたのご意見をお聞かせください。何か見逃していませんか?私に同意できることは?また、反対意見はありますか?以下の私のInstagramで、あなたの考えを直接私に伝えてください。

@ANADROMOUS



Chase Whiteは、ブリティッシュ・コロンビア州の西海岸を拠点とするコマーシャルおよびエディトリアルのアウトドアフォトグラファーです。ブリティッシュ・コロンビアを代表する場所や経験を記録することが多く、自然や、人々が生きていることに興奮を覚えるようなアウトドア活動から創造的なインスピレーションを得ている。彼の作品は、世界中の出版物、映画、ブランドで紹介されています。自身も熱心なフライアングラーであるチェイスは、仕事以外の時間は、妻のリンゼイと子犬のテッドと一緒に故郷の川で野生の魚との出会いを求めている姿を目にすることができます。